<ワクワーク2019 出展企業インタビュー>  第3回 株式会社ライデンフィルム代表取締役・里見哲朗氏

——会社全体で、1日のスケジュールは決まっているのでしょうか。

里見:
 決まってないですね。完全にフレキシブルです。肌感的には、午後のよきところに会社に来て、終電前に帰る人が多い。納品が近づくと、泊まり込むケースも出てきます。夜中に動くときは、ドライバー専任の方を雇って荷物を運搬をおまかせするのですが、どうしても急がないといけないときは、やっぱり自分自身でやりとりをすることになり、それに引きづられて徹夜になってしまうんです。

 会社の組織図としては、数人のプロデューサーをトップにして班分けされています。班ごとに、大体10人前後のスタッフが所属しており、班ごとにアニメを1タイトルを回せるだけの人数になっています。今はその班が4つあるんですが、それぞれがタイトルごとの固有事情を抱えているので、プロデューサーごとにスタッフのマネジメントを任せています。プロデューサーにも朝型と夜型がいるので、班ごとに入り時間が変わる、といったことはありますね。

——班はどのようにして編成されるのでしょうか。

里見:
 作品のオンエアに合わせて、スタッフを組み替えていくイメージです。アニメ1話分を作るのに大体2、3カ月かかりますので、制作進行にとってはその期間がひとつのサイクルになります。納品が近づくにつれて段々忙しくなっていき、納品直前にピークを迎え、その山を越えるとまとめて休んで、次のタイトルに向かう、という流れです。

——となると、休暇も班ごとにバラバラになってしまいそうですが、会社としての全体行事はあったりされるのでしょうか。

里見:
 年間行事としては、先ほどもお話した忘年会があげられますね。といっても社員のため、というよりも関わってくださっているクリエイターの方たちに、「今年1年間、ありがとうございました!」とお伝えする意味合いが強いです。ちなみに去年は中野サンプラザでやりました。俺は荻窪の居酒屋でいいじゃんと言ったんだけど、150人が同時に入れるキャパの会場がなかなか見つからなかったようで(笑)

——長期休暇についてはいかがでしょうか。

里見:
 会社としては、休める人間が休めるときに休めばいい、というスタンスです。
 夏季休暇、冬季休暇はそのタイミングで関わっているタイトルの進捗によるところが大きいです。ドンピシャで翌月放送予定のタイトル抱えるとなると、中々カレンダー通りにお休みを取る、ということは難しいですね。
 期間としては、夏休みは3日間付与しており、それを好きな時期に好きな取り方で消化できる形にしてます。納品がなければ、土日とくっつけて5連休にすることもできますし、納品がある場合は、秋にまとめて休みを取る形になります。
 年末年始は長めで2週間強くらいですね。厳密には「有給消化推奨日」という形にしてるのですべてがすべて休暇というわけではないですが。とはいえ、これも1月放送のタイトルを担当していると、「年末1週間会社に来ないでOK」というのは難しいですね。だからみんな、なるべく1月番組は受けないように……となりますね(笑)。
 
——新卒採用をされる職種についてお伺いさせていただきます。今年は制作進行と作画スタッフを採用されるとのことですが、それぞれに求めるスキルや人柄はございますか。

里見:
 なにはともあれ、楽しくやれるかどうかですよね。ネットでは「つらそう」みたいに言われる職業なので。
 ただ、アニメ業界を取り巻く環境として、大きな変化の流れは来ています。お金まわりの面や労働環境だけじゃなくて、ワークフローのデジタル化が制作におよぼす影響だったり、日本国内以外にもアメリカや中国のクライアントが増えてきていたりと、何もかもが変わろうとしていいます。そんなタイミングなので、やはり変化や成長を楽しめるかどうかじゃないかなあ、と思います。
 逆に言うと、変化のたびに「うわ、また変わっちゃうのかよ~」と思ってしまったりする方だと、どこかで疲れちゃってついていけなくなってしまうんじゃないかな、と。

——業界を志す新卒の皆さんは楽しくやれると信じている方たちばかりだとは思いますが、やはり給与がモチベーションに繋がることも事実だと思います。給与面は実際のところいかがでしょうか。

里見:
 業界全体的に、給与水準はやはり高くはないです。
 僕ら、制作スタジオに入るお金ってアニメ全体の制作費なんですね。その中で多くを占めるのが、クリエイターの方々にお支払する報酬。すごいシンプルな構図ですけど、弊社に限らず、全体の方針としては「クリエイターさんたちに支払う金額を少しでもアップさせたい」ということなんです。だから制作費を上げていくことで、入る金額を増やしていって環境を良くしていこう、というのが今の業界の流れです。
 そうすることで賃金面を改善していきたいとは思っているんですが、ビジネスとして考えるとクライアントさんもなるべく安く作りたいという思いがあるので、そう簡単に折り合いはつかないですよね。

——環境面の改善を、御社に限らず業界全体で行っているのですね。

里見:
 アニメ業界って横の繋がりがすごく強いんです。僕自身がよそのスタジオでもプロデュースをすることもあるのですが、例えば会社に入ってから「合わないな」と思って退職をして、別の会社に行っても大体知り合いがいるんですよね。いわば大きな「アニメ村」みたいなものなんです。
 今の弊社の場合だと、先ほど言った通り班分けされているので、班や上司との相性が悪いとか、たまたまタイトルがつらい状況だったとか、逆に楽ちんだったとか、社内でもすごいグラデーションがあります。でもそれはどのアニメスタジオでも多分同じことで、すごい良い上司に恵まれてしっかり学べるとか、逆に放置されるとかいろいろ出てきちゃう。
 だから、大きな「アニメ村」に入って全体で良くして行こうみたいな感じです。

——海外のクライアントが増えているとのことですが、今後、業界で働くにあたり、語学が得意なことは有利になりそうでしょうか。

里見:
 使えれば有利ですよね、制作進行以外のキャリアステップもでてくるので。
 語学として、現状求められるのは英語と中国語で、その2言語には需要を感じます。実際に使えると、プロダクション業務以外にも企画や営業といった仕事も視野に入ってくると思います。
 プロダクション業務は1年から2年の期間でチームを組成して、作品を作って、作品が終わったら解散、という仕組みなので、言語が複数扱えるということは、コミュニケーション上、圧倒的に有利です。例えば、アメリカ人のクライアントが来たとき、通訳抜きで直接英語でコミュニケーションをとれる人材が重宝されるのは当然ですよね。

 とはいえ、もちろんプロダクション業務と、企画や営業といったビジネス業務のどちらが好きかにもよります。実際にカット袋の中身を見て、どういうものを作っているかを手に触れたりしつつものを作るのが好きな人たちもいるので、そこは適材適所ですね。

——制作進行として班に配属されてから、実際に自身がプロデューサーとなり自分の班を持つまでのプロセスはどのような形になるのでしょうか。

里見:
 いくつかルートを用意してありますけど、制作進行から制作デスクになり、プロデューサーになる、というのがオーソドックスなルートです。
 中には演出になりたいという方もいるので、その場合、弊社では設定制作という、作品の設定まわりを管理するセクションをやってもらいます。設定制作としてある程度実績積んだあとは、演出助手になり、最終的に演出になるというルートもあります。

 それ以外に、現状はまだ部署としては無いのですが、制作進行から脚本家になりたいというメンバーも一定数います。弊社の社員だと現在1、2名は脚本を書いています。こういった脚本を志望する場合も設定制作を経験してもらい、シリーズ構成の方とか監督と話しながら、ある程度実務にも慣れてきたタイミングでアニメのシナリオを書いてもらう機会を設けています。