<ワクワーク2019 出展企業インタビュー>  第2回 株式会社トリガー取締役・舛本和也氏

――作品のコンセプトを、という話であれば、メインスタッフの方々をおまとめするだけで成立するのではないか、とも思うのですが、その点はいかがでしょうか。

舛本:
 メインスタッフを集めるだけだと不十分なんです。なぜかと言うと、メインスタッフたちの姿を見ることが、まわりのスタッフの育つきっかけになるからです。
 アニメの現場を目指すからには、最初は多くの人が「監督やキャラクターデザインになりたい」と思っているはずなんです。ただ、本当に残酷な話なんですが、監督やキャラクターデザインになるためには卓越した才能が必要となります。

 では、実際に監督になるために必要なものってなんなのか。個人的には、監督に必要なものを学ぶということは、現場における監督の背中を見ることでしか成立しないと思っています。監督になるためには何をしたらいいのか、何をしないといけないのか。フロアが同じ、なんなら監督が隣にいるという環境があればこそ、監督を観察する機会を作ることが出来ます。社内に3名の監督がいるという利点を、これから入社するスタッフの方たちには最大限利用してほしいなと思います。

――なるほど。

舛本:
 作品のクオリティアップ、という点においても、ワンフロアであることは寄与していると思います。
 日本のアニメーションの作り方は、アメリカと大きく違っていて、関わる方たちが発注された内容に対して、自分としての要素を盛り込んでいくんです。アメリカ的な作り方で言えば、発注どおりにつくることが求められ、むしろそうした仕様から逸脱した個人の要素を加えるということはNGとされるんです。
 そういった日本的な作り方をする上で、コミュニケーションはやはり非常に重要なんです。なぜかというと、ただ「自分を盛り込みたい」「こうしたほうが僕は面白いと思う」だけではわがままで終わってしまう。事前に監督や演出に意図を説明して、作品の中に落とし組む必要があり、こういったやりとりが日常茶飯事だということを考えると、物理的な距離がおよぼす作品への影響力は無視できないな、と思うんです。

――プラスアルファの魅力を支えているコミュニケーションをより活発にするためのワンフロアなのですね。クリエイティブに関わられる方々の個性を大事にしたい、という強い意志を感じました。

舛本:
 クリエイティブを尊重したい、というのはスタジオ設立当初からのポリシーです。とはいえ、作品のコンセプトに沿った形というのが前提です。かっちりと設定に準拠した形で仕上げることが目標なこともあれば、逆にどこまで振り切れるのかが試される作品もあります。よく社内では運動に例えるのですが、前者は競技が決まっている作品、後者はだだっぴろい運動場で何をしてもよいよ、という作品です。
 バスケットボールという競技においては、コートの大きさも、ボールを蹴ったら反則というルールも予め決まっているわけで、その中でどうやって面白い試合をするか、というのが前者における考え方です。
 その一方で、この運動場の中でだったらどんな遊びをしてもいいですよ、っていう作品もあるんです。そういう場合は作品ありきという点は変わりませんが、1人1人のアニメーターのやりたいことを最大限尊重することになります。その場合、最終ジャッジをする監督がOKと判断したら、作品としてすべてOKなんです。

――過去のご作品の傾向からすると、運動場が広い作品が多いイメージがあります。

舛本:
 そうですね。それはスタジオとしての大きな特徴だと思います。
 ただ運動場が広いと管理がめちゃくちゃ大変。特にうちは、運動場から出る子が多いので(笑) 完全に管理しきれるものでもないですが、一応僕らで管理しないといけないので。定期的に修正をいれつつ、「うん、運動場の中で遊んでるね」って。

――スタジオとして、あえてそうしていうというイメージが強かったのですが、その点はいかがでしょうか。

舛本:
 そうですね。
 作品を木に例えると、幹となるのが作品としてのコンセプト、幹からつながる枝葉の部分が映像表現の部分と言えるのではないかと思っています。どちらが欠けても、木のシルエットとしては成立しないわけです。
 例えば、今石洋之という監督が描く木の幹、これはいわば監督自身のアイデンティティだと僕は思っていますが、その幹がかなり野太い。多少のことがあろうとびくともしない、倒れない、という概念を今石が持っているので、枝や葉の形をある程度自由にしていただいても、監督本人が楽しくて、作品のプラスになっているものに関しては基本寛容的ですし、幹が太いのでそういった表現を支えられる、というのが実際のところだと思います。

 ただ、それはやはり作品によることも大きいです。
 『天元突破グレンラガン』は取り巻く環境として、ある程度自由度は高かった作品です。映像的にもいろいろと挑戦させていただきましたが、ドラマはなんの揺らぎもなかったと僕は思っています。話数ごとにギャグもあれば、シリアスもあり、その振れ幅はかなりのものでしたが、幹が太いかったからこそ、ファンの方たちにも長く愛していただけているのだと思います。
 その一方で、同じく今石が監督をした『パンティー&ストッキング withガーターベルト』ではキャラクターのデザインをきっちりと統一しました。キャラクターデザインの際、自由度を減らす代わりに、ある程度誰が描いても同じキャラクターに見えるようにする、という方針でした。
 この違いは作品制作では非常に重要なポイントですね。