【つむぎ作画技術研究所が描く業界の未来】ー作画スタジオでビジネスをする <ワクワーク2020 出展企業インタビュー>ー

今回は2017年4月に設立されたアニメーションスタジオである株式会社つむぎ作画技術研究所にうかがい、代表取締役の櫻井司氏にインタビューさせていただきました。

櫻井氏はアニメーターとしてだけでなく、スタジオでの人材マネジメントも行なってきた経歴があります。インタビューでは会社概要に加えて、櫻井氏がどうして起業をしたのか、その理由の根本にあるアニメ業界の労働環境についても熱くお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください!

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◆ビジネスとして考えるアニメ制作

ーー本日はよろしくお願いします。はじめに、御社の事業について簡単にご説明いただけますでしょうか?

櫻井司さん(以下、櫻井):

2017年4月3日に設立されたアニメーション制作スタジオです。アニメ制作の数ある工程の中でも、主に作画と呼ばれるパートを請け負っております。原画・動画・動画検査・仕上げ・線撮などですね。アニメ作品の全体を制作するのではなくて、その一工程でビジネスを行なっています。

弊社の特徴は、スタッフ全員がデジタルでの作業を行なっていること。そして、作画の中でも今までは複数の人で作業していた工程を1人のスタッフが内製(自社内)で行なっていることです。

 

ーー「デジタル」と「内製」がキーワードになりそうですね。なぜそういった形態で事業を始められたのでしょうか?

櫻井:

主な理由は2点あります。1点目は現在のアニメ制作フローを考えた時に、時間の無駄を少しでもなくす必要があると感じたため。2点目は会社としてビジネスを行う際に、動画の受注だけでは存続が難しいためです。

まず1点目は、制作フローの無駄をなくすことです。現在の制作システムは、元請け会社が作画パートの一部を他の会社に発注しています。ですが、発注先の会社も一社ではまかないきれず、別の会社に依頼することが多いです。その結果、一つのカットが複数の会社を行き来し、大幅なタイムロスに繋がっています。そこで弊社では作画パートを一括で請け負うことで、元請け会社が色々な会社に発注せず済むようにしています。さらに、デジタルで作画を行うことによって、制作進行が車で往来する必要もなくなり、結果的に作画パートの時間短縮になっています。

2点目は、動画の受注だけでは会社の存続が難しいことです。動画はアニメーションの動きのキーを描いた原画を動いているように見せるため中割りした絵です。しかし、アニメの工程の中でも動画は特に単価が安く、動画を担当するアニメーターの給料は安くなっています。アニメーターに払える給料も安いのに、会社が利益をあげるのはさらに難しいですよね。なので、動画だけではなく仕上げ一括で請け負っています。

昨今問題視されているアニメーターの低賃金・長時間労働ですが、私なりに取り組んだ結果がこういった事業形態になっています。

 

ーー低賃金・長時間労働への問題意識はいつ頃からあったのでしょうか?

櫻井:

起業する前からです。私のキャリアはアニメーターから始まり、キャリアアップと同時にマネジメントも担当するようになりました。そこで様々なスタジオを見ているうちに、よりうまく業務が回る方法があるのではと気づいたのがきっかけです。

10年ほど前からはスタジオでマネジメントのコンサルタントをやっていました。ただ会社の中ではどうしてもお金や権限の問題があり、一念発起、独立を決意しました。

スポンサーがついた起業だと、たとえ会社にとってマイナスがあったとしてもやらなきゃいけない場面が出てきます。スタッフが生きていくためにもビジネスとして会社を経営していきたいので、個人で独立をしました。

 

◆会社設立からの軌跡

ーーアニメ業界への問題意識が、つむぎ作画技術研究所の設立に繋がるわけですね。

櫻井:

動画ではそこまでお金をもらえない、でも作品は良くしたいという想いから自社の持ち出しで動画を直している会社も沢山あります。ですがうちは持ち出しは一切やりません。もちろん、それでも最終的に作品のクオリティが落ちることはありません。制作フロー全体を考えると一工程に時間をかけるよりも、映像納品に合わせて修正作業に時間を割けるようにして、少しでも工程を進めるほうが大事です。そういった考えに納得してくれる人と一緒に成長していけると嬉しいです。

 

ーーアニメーターだけでなく作品の質まで踏まえた上での取り組みなのですね。

櫻井:

そうですね。アニメーターの給料が安いから上げる、休みがないから休みを作る話ではありません。作品の質向上、ひいては会社の利益になるからこそ取り組んでいます。

アニメーターの仕事はただ絵を描くのではなく、本質はお芝居をすることです。絵を手段として、感情を視聴者に伝えることが大事になってきます。ただでさえアニメの表現は記号になりがちなので、スタッフが休みなく絵を描いて心を動かさないでいると、良いアニメーションは作れません。

そのためにも、現在の就業時間をあと1時間は短くしたいと考えています。また、ある程度アニメ制作のスケジュールに関われるようになったら長期休暇を取れるように考えています。そういった休みを利用して外に出てもらえれば嬉しいです。稼ぐというより、普通の生活をして欲しいという考えです。アニメーターはどうしても外との繋がりが薄くなってしまうので、できれば入社前にも色々な体験をしておくことが望ましいですね。

 

ーー会社として一年半やってみて、この事業形態の手応えはいかがでしょうか?

櫻井:

ありがたいことにお仕事もいただけていて、社員にも給料を払えており、軌道に乗りつつあります。ただこのやり方が正解だとはまだ言えません。アニメ業界の景気がよく、そして運が良かったからです。フリーのアニメーターのキャパシティは限界に近づいてきています。だからこそ、キャパシティに余裕がある弊社に仕事がいただけているのだと思います。

今は人を増やそうとしていますが、いただけるお仕事が少なくなってきた時の営業も考えなくてはいけません。うちの会社に仕事を頼みたいと思っていただけるよう、今後も成長を続けていきます。

ーーアニメーターからすると、動画から仕上げまで一人で行うのはマルチな能力が必要になりそうですね。

櫻井:

最初の3ヶ月くらいは苦労します。入社後はまず動画を描くことから初めます。正直なところ、動画は未経験からでも行えます。他の工程も順々に教えますが、どれも基本的に未経験から始められます。

ただし原画は別です。原画は動画と違って絵が上手でないと他の工程に迷惑をかけてしまい、それで自信を失ってしまう人も多くいます。なので、動画から原画へのステップアップには慎重になっていますね。

未経験で入社する場合は、素質によっては原画へのステップアップが難しくなります。仕事で教えられるのは、アニメの作法と、効率良いやり方だけです。絵がうまくなるには自主的な努力や、入社前に勉強する必要もあります。そこが今の弊社の課題ですね。ただそれを眺めているだけでなく、現場に直結した予備校を作るなど、対策は始めています

別の視点からでは、作画工程を複数経験するのは今後のキャリアに役立ちます。アニメの制作はコンテから始まり原画と続いていくわけです。それらを担当する時に、最終工程である作画を意識しながら作れるはずです。

また、2000年以降アニメの制作はデジタルに切り替わってきています。紙の時代には必要だった素材作りの技術が、今では必要ないこともあります。逆にデジタルだからこそ必要になる技術もあります。弊社で作画の工程をデジタルで行うことで、時代の流れに合ったアニメを学ぶことができますね。