<ワクワーク2019 出展企業インタビュー>  第3回 株式会社ライデンフィルム代表取締役・里見哲朗氏

——作画志望の方に求めるスキルはございますか。

里見:
 やはり、「考えながら描く」ということですね。
 大体、作画スタッフのキャリアの出発点は動画という仕事になりますが、僕らがかつて業界で見ていた動画の仕事と今求められる動画の内容はもはや違ってしまっていて、面倒な仕事になってるところもあるし、かといって動画としての仕事に注力しちゃうと、原画の勉強がなかなかできなくなってしまいます。

——海外の会社に動画をお願いするケースもありますが、今は国内での動画は減っているのでしょうか。

里見:
 いや、減ってはいないですね。というよりも、一時期減ってしまったことを受け、各社でまた育成しているという状況です。その意味では、以前のように原画に至るまでのただのステップというより、次世代を育成するための動画という意味合いを持って行くと思います。プロフェッショナルな仕事として動画にスポットを上げて、きちんと評価していくような流れを導入していきたいかなと思います。

——クオリティを担保してくれて、なおかつたくさんの枚数を描けるスキルがあるなら、それを原画としてではなく、動画として還元して欲しいという思いもあるわけですね。

里見:
 そうですね。数年で全員が原画に上がっていき、動画は全員新人です、となるよりも、ある程度のキャリアや実力があるプロフェッショナルの方たちが、層の厚さを持ちながら存在しないといけないようには今なっていると感じています。

 また、クオリティと制作費の話でやはりついてまわるのが、現場がクライアントから求められるクオリティを上げちゃったのではないかな、という話。
 というのも、20年前、30年前の先人たちはもっと作画の線が少なくても問題なかった。そういった時代に、それに応じた制作費の中で、とんでもないクオリティの作品をバンバン出す、「情熱でもっとクオリティ上げられるはず!」という方たちが出て来る。ファンとしてはもちろん嬉しいんだけれど、クライアント目線からすると「この金額でこのクオリティ出るんだ。それならこれからもこのクオリティでお願いします」となっちゃいますよね。そうやって歴史が積み重なった結果、現在の業界の状況になってしまったのではないかな、と勝手に想像してます。

——先ほども出た海外のクライアントさんの増加は、制作費の上昇に良い影響をもたらしうるのでしょうか。

里見:
 ケースバイケースですね。とはいえ、そんな薔薇色の話はないですよ(笑)
 ひとつ言えることとして、海外勢が今後減ることはないし、そもそも国境がどうのという時代でもなければ、お金に名前が書いてあるわけでもない。僕らスタジオとしては、国内の今までのビデオグラムメーカーとだけ仕事していくというより、いろいろな企業とのコラボレーションをしていって、その中で新しいスタジオの立ち位置っていうのを決めてくんじゃないかと思います。

 クリエイターの方たちがどんな作品であっても手を抜こうとする方がいらっしゃらないように、僕らもクリエイターの方たちに十分な対価を用意する必要がある。待っていたところで神風が吹くわけでもないですし、スタジオとしてはいただけるお仕事はどこからのものでもお受け出来るようにしていきます。

——貴重なお話をありがとうございました! 最後に、アニメ業界に就職する学生に向けてメッセージをお願いいたします。

里見:
 これから先、いろいろ変化があって非常に楽しいタイミングで、就職するにあたってもすごくよい時期だと思います。「歴史が変わる瞬間、面白いことが出来るこのタイミングに立ち会おうぜ!」っていう意味では、今しか出来ないことがあることは間違いないです。
 さきほど言った通り、アニメを取り巻くビジネス環境も変わろうとしているし、クリエイティブについてもデジタル作画や3DCGを含むいろいろな技法がミックスされてきている。どこを向いても、昨日と同じ風景はないと言えるんじゃないかと思います。

 現在進行形でアニメに関わっている自分たちにすら、この変化の結果、どういったものが生まれるか、検討もつきません。どれくらい表現の幅が広がるのか、どれくらい今までアニメに触れてなかった世界の人たちに新たにリーチできるのかもわかんないんですが、個人的にはおおむね正しい方向に進化していっていると実感しています。

 給与面や労働環境について不安を感じる方はいるかもしれないんですが、例えば制作進行をどこかの会社で1、2年やってから辞めたとしても、別の会社で「制作進行1、2年やってました」って言ったら転職できるのも事実で、そういう意味で「アニメ業界に就職する」というイメージでぜひとも就職活動にのぞんでもらえたらと思います。

——そういった今後の変化がアニメ制作会社に与える影響はポジティブなものと考えてよいのでしょうか。

里見:
 どうでしょう。ただ、可能性の一つとして、既存のアニメスタジオじゃないところがアニメの主流になることも十分あると思っています。例えば、IT系の企業やソーシャルゲームのメーカーさんとか。

 アニメって、50年くらい前に『鉄腕アトム』が作られてから、アナログ時代のテレビアニメの技法がレガシーなノウハウとして積み重なってるんだけど、その遺産が正直今は重くなってる部分もあるんです。
 でも、業界に全く関係ない会社が最先端のアニメの作り方を真似すると、過去のしがらみにとらわれることなく、劇的に映像づくりの方法を変えてしまう可能性もあって。結果だけ見て追いつこうとすると、かなりショートカットができるし、身軽にものが作れるはずなので、異業種にいる才能が、いきなりアニメ業界の天下を獲るっていうこともありえなくはないですよね。

 ただ仮にそういうことが起きたとしても、アニメ業界で働いている人たちの強みとしては食いっぱぐれないところですかね。結局、異業種が新しいマーケットを作ったとしても、ものを作る根本の設計図はアニメ制作会社から提供を受けることになると思います。その意味では、もろもろの技術に関して僕らが積み重ねてきたものは今後も無駄にはならないです

——本日はお時間をいただき、ありがとうございました!

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<ライター 江部我空 、 編集・撮影 中山英樹>