連載第5回 アニメ制作で使用するツール・テクノロジー 〜最新技術②と技術の今後について〜

アニメ制作で使用するツール・テクノロジー第5回(第1回第2回第3回第4回はこちら)。

なんと、これが本連載最終記事です!昨年11月からスタートしたので、筆者の浅井にとっては少し感慨深いもの。最初の記事よりは改善されたかな……

最終回は、こちらの会社に注目しながら、アニメーション制作の技術と可能性について考えていきたいと思います。

ピクサーのアニメーションと技術について

そうです、あの「ピクサー」です!2006年にディズニーの完全小会社になった会社ですが、その歴史はCGアニメーションの歴史そのものでもあります。

1995年に世界初の長編フルCGアニメーション「トイ・ストーリー」で、世界的な興行的成功を収め、1990年代後半から2000年代前半には、当時衰退していたディズニーを凌駕し世界のアニメーションの頂点に君臨し、今ではディズニーグループの一員として、圧倒的クオリティーの作品を継続的に提供しています。

あまり知られていないですが、ピクサーという会社はルーカスフィルムのCG部門を率いていたエドウィン・キャットムルという技術者(後の、ピクサー・アニメーション・スタジオとウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの社長)に当時アップルを退社していた、創業者であるスティーブ・ジョブスが投資する形で誕生しました。

ピクサーは、作品のたびに新しい技術を無数に作り出すことで有名で、これにより生産性の向上表現幅の拡張を実現しています。

特に有名なのが、「レンダーマン RenderMan」です。これは、ピクサーによって開発されたレンダリング(抽象的な数値情報を計算し、画像化させる処理のこと)を実行する専用のソフトです。

RenderManのダウンロードページ

レンダーマンの有名な特徴としては、そのレンダリング処理の速さが挙げられます。

基本的には、カメラに映る必要な部分だけ解像度をあげ、他の部分は荒く処理するレンダリング手法(詳しく述べると、全体は低ポリゴンでオブジェクトをつくり、カメラに映る部分のみを情報量を追加し、細かいポリゴンまで分解し扱う)を搭載しています。必要な部分に注力してリソースを割く、なんともダイナミックなアメリカらしいアプローチなのかもしれません。

(ちなみに、今年2020年にコンピューティング領域のノーベル賞とも言われるチューリング賞の受賞者は、スタジオの社長を努めたキャットムル氏と、レンダーマンの開発責任者であるHanrahan氏であることは、CGの領域の期待がさらに高まっていることと、それがアニメーションにどれだけ大きな影響を与えたかを示す証左でもあります。)

そしてなんと、2016年の「ファインディング・ドリー」の製作時に、要素ごとの技術の作成、改善にとどまらず、彼らは制作工程そのものを改善しやすい仕組みに変えてしまいました。

この作業の体系化は「パイプライン」と呼ばれ、ゲーム業界でも以前から導入・検討されている考え方であり、各工程が前の作業に依存する形でなく、それぞれの工程が独立して作業が行われ、自動で結果を更新する仕組みのことを言います。

これにより、より加速的に作業や、その修正に取り組むことができるようになり、例えば「トイ・ストーリー4」のアンティークショップのシーンでは、8工程あるプロダクションの全ての工程が同時に作業に取り組み、毎日会議しながら、最終的に62回のアップデートを行い、やっとの思いでシーンを作り上げたそうです(それを可能にした技術とクリエイターのみなさんの挑戦への情熱に頭が上がりません……)。

ピクサー・アニメーション・スタジオのモットーである「アートがテクノロジーに挑戦し、テクノロジーがアートをインスパイアする」という言葉ほど彼らの姿を表現しているものはないのではないでしょうか。この作品と技術に対する姿勢は、日本も見習うべきところはあるでしょう。

全5回のアニメ制作で使用するツール・テクノロジー、いかがでしたか?技術の歴史、ツールの紹介、制作工程のデジタル化から最新技術までいろいろなテーマを扱ってきました。解説が十分でない箇所もたくさんあると思いますので、ぜひ記事を参考に、詳しい学習に取り組んでみてください。

技術は制作を効率化し、表現の幅を増やします。これからますます、より少数でかつ低コストで、質の高い作品を作る集団が現れてくるでしょう。

さらに、アニメーション制作のSNS(Pixivのアニメ版)のような存在が誕生し、二次創作も含め多くのクリエイターで溢れている日本で、彼らが濃い密度で刺激しあい、爆発的に素晴らしいアニメ作品が生まれる、そんな未来も近いのかもしれませんね。

<ライター:浅井恵斗、 編集:数土直志>